5. 社会の中のテクノロジーアート

渡邊:
ちょっと大きな話かもしれないんですけど,ここで見たものってアーティストとかエンジニアリングていう,氷山の上の凄い狭い所の話をしたとおもうんですけど,一方で,メディア芸術祭を見に来てくれた5万人の人たちがいるわけじゃないですか.そういう人たちに対して何ができるかなと,さっき筧君とも話したんですけど,午前中にいったサーキットベンディングていうのは,僕のなかではヒントになるかなと思ったのですよ.さっき,救いになるかもって田中さんがいってたんですけど,そんな誰もかもエッジなことやってるわけでもないし,そうじゃない人たちに対して,僕らがやっていることがどういう意味を持つのかなということにすごい興味があって.

久保田:
それこそ料理に近いよね.レストランのシェフもいるし,日常生活の中でお昼のパスタをつくる人もいる.シェフでなくても作る楽しみはあるし,料理番組や雑誌を見て工夫することによって楽しめる.

渡邊:
ファッションショーとかと似てたりしますか.

久保田:
モードとアパレルの関係かな.モードとアパレルの関係は面白いよね.モードで誰かが何かやると,それが次から次へと波及していって,最終的にはスカートの丈が3cm短くなったりするような.

田中:
こないだ久保田先生が言ってた.メディアアートもJリーグみたいなサッカーの中田英寿を生まなければいけないというのに似てて.あれって,超トップの日本代表からアンダーなんとかから,もっとさらに,サッカー少年まで地続きでグラデーションになってるのがいいと思うから.

久保田:
裾野の広さは重要だよね.例えば,メディア芸術教育の例でいうと,大学入学時点でiMovieやGarageBandくらいが,鉛筆デッサンぐらいに使えるようになっていると,きっとすごくやりやすいよね.4年のうちにInferno 9 に到達できるだとか.今はまだ裾野が狭くて,入ってきた学生にコンピュータの使いかたから教えなければならないからなかなか大変.もちろんInfernoに到達すればいいのかどうか,ということは問題なのだけど(笑)

渡邊:
この会は,研究会としてエッジの人たちを混ぜるという部分から,もう少し,例えば,教育だったり卒業した人たちのキャリアパスも考えるという話もあったじゃないですか.その辺にも向けて,別に欲張る必要はないと思うんだけど,そういう所まで視野に入れたら良いのかななんて思うのですけど.

田中:
だから,ひとつのメディア芸術という文化の中でそれぞれ関心あるポイントがばらばらだといいよね.それぞれ取材したい対象がうまく分かれているといいなと.

渡邊:
エッジなとこはそれぞれやっていくし,それをもう一つ広げた時の,メディア芸術祭に来てくれた5万人の人には,教育だったり,キャリアパスの話だったりするほうが重要かもしれなくって.サーキットベンディングで遊んでみたりとかそういう体験をもっとすることのほうがいいのかもしれないし.

長谷川:
仕事にできなくってよくって,趣味で遊べるのはいいよね.絵を描いてる人っていくらでもいますよね.

田中:
日本代表を取材するのか,もっと若いアンダー20なのか.小学校でやってるサッカースクールなのか.

長谷川:
サーキットベンディングの活動とか広めていきたいというか,支援していきたいですね.

渡邊:
例えば,サーキットベンディングがここの一角でやっていたら,5万人の人がそれを見て行くわけでしょ.こういう活動自体,僕もはじめて知ったし,もっと知っててもいいし,「僕もやってみよう」という人もっとたくさんいるはずなんだよね.

長谷川:
メディアアートて入り口が難しいなと思ったんですよ.IVRC10というバーチャルリアリティのコンテストをやっているんですけど,アートじゃなくてインタラクティブ技術のコンテストです.それも作品にするまですごい大変なんです.だから,はじめてやりたいと思った人がなかなか参加できないんですよね.まともな作品作れる所まで行かないんですよ.だけど,ベンディングというのはいきなり来て,その日のうちに遊べるものが作れてたんで.あのぐらいの所からスタートできるのはありがたいなと.バーチャルリアリティ入門キットを作るという話も何度も考えたりとか,すごい簡単にできるテレイグジスタンス・コンテストを作ろうとか,色んなことを考えたんですよ,IVRCで. でも組み立てキットを作って配るとかってつまんないんですよ.そういうことしても画一化するだけで.あれ(サーキットベンディング)は画一化もしてないのに,誰でも参加できて,それで勉強になるっていうのは,良いもの見つけたなぁと思いました.

久保田:
いい入口にもなるし,なにより楽しいよね.自由にとって多様性は不可欠だからね.

渡邊:
アートっぽいのでそういうのはないんですか.アートの教育じゃないんですけど,サーキットベンディングにあたるようなアート作品みたいな.

長谷川:
あれは,アートではないんですか?

渡邊:
あれはちがうと僕は思ってますけど.

田中:
ヌードデッサンに相当するメディアート版っていったい何なんだろうね.

久保田:
アート・オブ・エンジニアリングはアートじゃないし,アート・オブ・プログラミングもアートじゃない.何でもアートといってしまうとそれは逆に危険で,例えば「あらゆる音楽はジャズだ」などといってしまうと,あらゆる音楽はクラシックだし,あらゆる音楽はロックである,ということと見分けがつかなくなってしまう.でも僕は,ベンディングは今の観点から言うとアートだと思う.何か新しい価値を作りだす可能性がある.アート・オブ・プログラミングとアートの違いは,ゴールが確定しているかどうかで,アート・オブ・プログラミングは,シンプルさやエレガントさや正しさに依拠している.「冗長なプログラムにも面白さはある」だとか「プログラムには動くことよりも大事なことがある」と素直に言えないのが,アート・オブ・プログラミングとアートの違いじゃないかな.ベンディングのゴールは多様で曖昧だよね.

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